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新興市場への参入戦略立案の基本【コラム】

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 日本企業の海外進出がブームのようになっていますが、ブームに流され、手段が目的化しているケースもあるようです。国やマーケットが変われど、事業の目的は、ドラッカーの名言の通り「顧客の創造」だと思うのですが?

求められる戦略的意思決定

 一昔前の海外進出ブームの目的は、「製造コストの削減」でした。もしくは、「顧客の海外進出に伴う追随」というケースも多かったです。この場合、アプローチはシンプルです。政府が推薦している海外工場団地に入居したり、追随する顧客の近くに製造拠点をつくるということです。もちろん、会社登記、サプライチェーンの確立、現地採用等の煩雑なことはいろいろありますが、それは「戦術レベル」での課題です。

 しかし、様々な調査結果や、最近の弊社への問合せを見てみると、昨年ぐらいから進出の目的が「売上拡大のための市場開発」にシフトしてきているように感じます。この場合、問われるのは「戦略レベル」での意思決定です。どの市場を選び、どのような参入形態を採るのかということです。しかし、日本企業は戦略的な意思決定が苦手なケースが多いようです。オーナーの鶴の一声で決まるケースは別ですが。

新興国における市場調査の大前提

 では、どのように検討を進め、意思決定をすれば良いのか。まずは、参入する市場の選定方法ですが、大前提として知っておくべきことは以下の二つです。

 ①新興国では細かい統計情報が整理されていないことが多い

 ②新興国では市場環境が変化するスピードが早い

 ですので時間をかけて、確証を得られるまでじっくりとデータ収集をしていても必要なデータを入手できず、そして調査結果が出る頃には状況が変わってしまいやり直しなんてこともありえます。候補をざっくりと絞り込む際には、現実的に手に入る情報を分析し、素早く判断することをお勧めします。ここで慎重にやりたいというタイプの方は、おそらく新興国市場には向いていません。成熟市場で頑張ってください。

参入戦略の選択肢と意思決定

 次に、市場選定と参入戦略の意思決定についてですが、以下のようなフレームワークで検討されることを私は推奨しています。

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 結論から言うと、まずは顧客ありきです。見込客や代理店となり得る企業に自社製品を売ってみれば良いのです。上品な用語を使えば、テストマーケティングもしくは販路開拓というやつです。これにより、市場の反応がダイレクトに把握することができます。その結果、その市場に参入すべきかどうか判断できるはずです。

貿易で済んでしまえば一番簡単

 販路開拓の結果、素晴らしい総輸入代理店が見つかり、契約できれば、そのまま貿易ベースで売上につながる可能性もあります。そうすればリスクを負う必要もなく、面倒な登記、会計、労務管理等ということをせずに済みます。このケースが最も効率が良く、最高です。

 もし、貿易ベースでも十分に市場性があるというのであれば、海外営業が頻繁に出張して代理店のフォローをすればよく、よりフォローの密度を上げたい場合は駐在員を長期滞在させたり、現地で駐在員業務を委託するという手もあります。上図の右下への展開です。今後、より円安に向かう場合は有効な方法だと思います。

価格競争力が必要な場合には現地製造へシフト

 販路開拓を行った結果、例えば市場性はあるがコスト面で競争力がないということが判明した場合、現地企業へのライセンス提供やジョイントベンチャーによる現地製造、もしくは現地企業のM&A等の選択肢が見えてきます。上図の左上への展開です。場合によっては、自社単体で進出する方が有効かもしれません。

海外市場においても事業の目的は「顧客創造」

 いずれにせよ、実際に販路開拓を行わず、現地の見込客や代理店の声を聞かず、参入戦略を意思決定することはやめましょう。リスクの大きな参入形態をいきなり選択すると、先行して多くのコストが発生しますし、失敗した際の撤退のコストも嵩みます。特に中小企業にとっては死活問題になりかねません。この手の悲しい話は本当によく耳にします。

 弊社のクライアントの中には、メキシコで3週間で22社と商談したという猛者もいます。帰国後、さすがに疲労でダウンされたようですが。彼らはその商談の結果を踏まえ、参入戦略を意思決定されるご予定です。事例の詳細はこちらを参照ください。また、販路開拓がそのまま輸出につながったタイの事例はこちらです。

 弊社としましては、このような世界中での販路開拓、フィージビリティスタディ、そしてそれに伴う現地訪問のアレンジ・サポートを、今後も日本企業に提供していきたいと考えています。皆様も、海外進出を検討される際は、ドラッカーの定義する事業の目的、すなわち「顧客の創造」から始めてみてください。

2014年3月
長谷川 靖志